コロナ禍の東京を撮りました『東京自転車節』青柳拓監督インタビュー



世界中がコロナ禍で先行きが不透明となった2020年。甲府にある実家で暮らしていた青柳拓監督は収入を絶たれ、労働を求めて自転車に乗って東京へ。稼ぐ手段として選んだ仕事はウーバーイーツの配達員。青柳監督は稼ぐために自転車を走らせ、セルフドキュメンタリーという手法で東京を撮り続けた。そして完成したのが、映画『東京自転車節』。青柳監督に撮影秘話をうかがった。

Q.監督が自転車で走り回るセルフドキュメンタリー映画と聞いて、平野勝之監督作『由美香』が思い浮かびました。
平野監督の『由美香』と『白 THE WHITE』は観ました。カメラを遠くに置いて自転車を押していくスタイルや、撮影の方法を結構参考にして、映画の中で挑戦しました。

Q.撮影の機材は?
基本はiPhone2台とGoProの3台だけです。引きのカメラで僕の後ろ姿を撮ってもらうこともありましたが。小型の撮影機器でないと、ウーバーの仕事ができないので。

Q.ウーバーで稼ぐ目的のひとつが、大学の奨学金返済ですよね?
はい。高校を卒業して神奈川の日本映画大学に進みました。父親に「好きなことをやれ」「好きなことじゃないと進学させない」と言われ、映画と音楽が好きだったのですが、音楽は食えないと判断して映画に進むことにしました。

Q.その頃からドキュメンタリー志向で?
いいえ。大学には劇映画をやるつもりで入ったんですけど、途中からドキュメンタリー映画に進むことを決意しました。

Q.卒業制作で撮った『ひいくんのあるく町』は2017年に全国劇場公開されました。
『ひいくんのあるく町』を劇場公開することになって宣伝活動に力を入れていたら、就職のタイミングを失ってしまいました。この1本目を公開したときに、1本じゃ終われないという気持ちになって、就職しないでこれまできました。

Q.大学は出たけれど、映画で生きていくのは大変なんですね。
実家のある山梨に戻ってからは、運転代行のバイトをしながら、映像の仕事をもらっていました。3~4年ぐらいの間。コロナ前までは。

Q.そんな状況下、本作に取り掛かったと。
東京の今の状況をウーバーイーツで稼ぎながら撮れたらおもしろいと思ったんです。まず、先が見えない誰もいない東京の状況がおもしろい。コロナによって浮き彫りになった嘘みたいな状況が描けるのではと。緊急事態なのに満員電車があるみたいな。奨学金返済のために稼ぐことをテーマとした映画を撮る考えは以前から持っていましたし、何よりも生きるために稼ぐ必要があったのでウーバーで働くことを決意しました。

Q.奨学金返済は日本が抱える大きな問題でもあります。
僕らの世代ではふたりにひとりが奨学金を借りています。人によって大なり小なりですが、僕は結構な額を借りていて、まだ全然返していないんですけど。

Q.大学の同期の方が出てきますよね。自転車配達員の先輩として、青柳監督にアドバイスする。
はい、高野君は日本映画大学で一緒でした。今はアルバイトしながら助監督やっています。

Q.若い役者やフリーの映像関係者にとって、昔からバイトは不可欠ですが、今ではウーバーなんですね。
ウーバーイーツはもっともフレシキブルで、シフトがない仕事。フリーで仕事をしている人には働きやすいバイトと思います。

Q.作中に出てくるホームレスの役者のおじさんと青柳監督との出会いとやりとりも印象的でした。日本映画業界の一部分を垣間見るような。
偶然なんです。野宿をしようとしたときに声をかけられました。役者の世界、映画の世界は厳しいなと思いましたね。

Q.ホームレスの役者以外にも、ユニークな人物が何人も登場します。特にドキュメンタリー映画『沈没家族 劇場版』の加納土監督と青柳監督とのシーンはウケました。
土くんは、コロナ禍のステイホームの正しいあり方のひとつとして出てきてくれつつ、悪役感も見せてくれました。

Q.コロナにおびえて、しっかりステイホームしているんですよね、加納監督は。カメラを意識した小芝居がなかなか(笑)。
映画をやっている人ならではの性でしょうね。土くんだけではなく、その他の登場してくれた方々も魅力的で、出会いには恵まれたと思います。

Q.2020年のコロナ禍を象徴する出来事(ウーバーイーツ配達員の急増、フィットネスジムの雇用問題、宿泊料金を大幅値引きしたアパホテルなど)、さまざまな人たちとの触れ合いをユーモラスな視点で描いた前半と後半とでは少し趣が変わってきます。後半には、社会への疑問や鬱憤が蓄積していく青柳監督のイライラ感が感じられました。
ウーバーには3日間で70回の配達をすると追加報酬を得られるゲーム的シムステムがあって、それをクリアすることを目標にして取り組みました。

Q.伸び続ける髭が、蓄積されていくイライラの大きさを象徴しているようにも感じられたのですが。
それはおもしろい見方ですね。でも、働くことに集中していくと髭とか構ってられなくなるんです。

Q.労働にのめり込むにつれて、他のことはあまり気にならなくなるのでしょうか?
始めた頃に泊まっていた友達の家もあったんですけど、配達にのめり込んでいって帰りが12時や1時とかになると、帰るのが申し訳ないと思うようになって。そんなときは出稼ぎ人としての遠慮する気持ちが芽生えて、野宿を選ぶこともありました。

Q.この作品は情報量が多く、労働についていろいろ考えさせられました。
今回の映画は、コロナは描き切れてはいません。コロナが完全に終わっていないのですから。だけど、コロナが始まった頃の様子、コロナ禍に揺れる東京は撮りました。「これからどう生きていくか、コロナとどう向き合うか」などを考えて作りました。

Q.青柳監督は今もウーバーで仕事中なんですね。
はい、ウーバーは続けています。昨年、甲府に一度戻って、もう一度映像の仕事をしっかりやろうと思いまして、12月に再び東京での暮らしを始めました。

取材・撮影 シン上田

『東京自転車節』
7月10日(土)より、ポレポレ東中野にてロードショー、ほか全国順次公開

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